活字迷走覚え書き

読書感想文

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『1985年の奇跡』五十嵐貴久著/双葉文庫

○一言感想○

「どこかで起こっていてもおかしくない奇跡」

1985年の奇跡
1985年の奇跡
posted with amazlet on 06.07.03
五十嵐 貴久
双葉社 (2006/06)

最近ずいぶん暑くなってきました。本格的な夏到来といったところでしょうか。

夏といえば高校野球を連想される方も多いでしょうが、ワタクシはあまり野球に興味がありません。でも本の世界ではちょっと野球づいています。

小説では「バッテリー」、漫画では「おおきく振りかぶって」が私の好きな野球モノ二大勢力です。
特に「おおきく振りかぶって」は現在作中で甲子園地区予選の真っ最中。今の時期にピッタリでございます。

さて、「1985の奇跡」ですが、こちらも「おおきく振りかぶって」と同様に高校球児が活躍する青春高校野球小説です。

創部以来連敗続き、公式戦はおろか練習試合でも一度も勝利した事の無い落ちこぼれ弱小野球部。そこへ転校してきたのは名門野球部に在籍していた天才ピッチャー、沢渡俊一であった。

とここまで読んで「1985年の奇跡」というタイトルと照らしあわせてみると…


思いがけないエースを手に入れたことで野球部一同は奮い立つ。
血反吐を吐くような練習を積み重ねるうちに輝きだす個々の実力。しかしそこに小さな歪みが生まれつつあった。
部の元エースが「ここに俺の居場所はあるのか?」と天才ピッチャーへの妬みと憧れの間で揺れ動いた挙句に部をこっそり去り、学校一のワルとつるんで野球部へ執拗な嫌がらせを始めたのだ。
グラウンドでバイクを暴走させる元エースを説得するのは元エースの親友でもある野球部キャプテン。
「お前が頑張って投げてきたから俺達も野球を続けられたんだっ! お前大好きだった野球を捨てられんのかっ!?」
「関係ねーよ! 野球なんてくだらねーことやってられっかよ!!」
「バッキャロー!!」
キャプテンの右ストレートが炸裂。
崩れ落ちる元エース。
グラウンドの日に焼けた土を握り締め、自分の不甲斐なさを嘆きつつ搾り出した答え。
「野球がやりたいです……!」
「帰って来い! 俺達にはお前が必要だっ!」
ヒシッ!(熱血抱擁)
「行こうぜっ! 甲子園!!」
だがチームがやっと一つになれた矢先に飛び込んできたのは、今まで優しく厳しくチームを見守ってきた監督が病に倒れたという知らせ。
「あいつらが甲子園の土を踏むまで死ねるかバカモノ」と強がる監督に涙を堪えながら「ええ、あの子たちならきっとあなたを甲子園に連れて行ってくれますよ」と答える妻。
かくして誰も予想だにしなかった無名弱小野球部の快進撃が始まった。
地区予選をあれよあれよと勝ち進み、見事甲子園への切符を手にいれた彼らは止まることを知らず、奇跡への階段を駆け上ってゆく。
そして迎えた甲子園決勝。
彼らを支えてきた家族、彼らが破ってきたライバル達、そしてベンチに置かれた監督の遺影が見守る中、試合開始のサイレンが鳴る。

1985年の奇跡。僕達はこの夏を忘れない。
END

てな話を思い浮かべるでしょう(長っ)。私は思い浮かべました。


ですが、「1985年の奇跡」の主役たちは熱血とは程遠い、そんじょそこらの落ちこぼれとは一線を博したやる気のなさを発揮しています。
元エースは何の葛藤もなくあっさり沢渡にエースを譲り渡し、ろくに練習もせず(可愛いマネージャーがいるときだけ張り切る)、あくまでエースに頼りきったすがすがしいまでの他力本願で地区予選に挑むのです。

天才ピッチャー沢渡のおかげで順当に勝ち進んでいた彼らではありましたが、準決勝でアクシデント発生。
頼りの綱である沢渡が突然の不調によりマウンドを降りてしまったのです。
エースの力だけで勝ち進んでいた彼らになすすべも無く、そこで甲子園の夢は絶たれました。

(「エースの不調」は「エースの秘密」に繋がっています。顔良し、頭良し、性格良しで、どうも出来すぎの観があるエース沢渡に、ワタクシ疑念を抱いておりました。もしかして、まさか、やっぱりそうでしたかっ! と自分の嗅覚に自信を持った次第です。とはいっても、似たような嗅覚をお持ちの方なら誰でも気付くかも。)

理不尽だとわかっていながら、「お前が来なけりゃ甲子園なんて夢を見ることもなかった」と沢渡を責める部員達。
ですが、やがて彼らは気付きます。
自分達が野球を必死でやろうとしなかったのは、負けたときに「どうせ本気じゃなかった」という逃げ場を作りたかったから、努力して全力で戦って敗れて自分達の底を見るのが怖かったからだということを。

部員達は退部届を出し野球部を去っていた沢渡をコーチとして呼び戻し、今までに無く本気で野球に取り組み出します。
そしてエース不在(退部届は生きているので、沢渡は試合に出れない)のまま自分達の力で秋の大会を勝ち進み、夏に沢渡をマウンドから引きずり下ろした因縁の相手との試合に挑むのです。

ところが試合を前に野球部を目の仇にしている校長との対決が待っていました。
沢渡を試合に出したい部員達と、阻止しようとする校長。
切り札である沢渡の退部届を校長が取り出したとき、退部届にほどこされたとあるトリックが発動します。

(このトリックが小技が効いててとても良いのです。こんな伏線が貼ってあったのねーと得した気分になりました。)

校長をギャフンと言わせて沢渡の試合出場を勝ち取ったものの、試合後には野球部の活動停止処分を免れない状況。彼らにとって現役最後の試合です。

「とにかくやってみよう。もしかしたら、奇跡が起きるかもしれないじゃないか」

そう心の中で呟く岡村キャプテン。

彼らに用意されたのは、どんな奇跡だったのでしょうか。


読了後、妙に切ない気持ちに包まれたのは、「こんな話あるわけないじゃん」とは言い切れないリアルさが漂っているからかもしれません。
どこかで誰かが起こしたかもしれない奇跡に出会える一冊でございます。

1985年の奇跡
1985年の奇跡


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  1. 2006/07/03(月) 21:03:53|
  2. 作者:ア行
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